自分よりもひと回りは若く、美しく、可愛らしく、優しく、貞淑で、家事が得意で。
およそ理想の妻として必要な素養を殆ど全て兼ね備えているのではないかというような、そんな伴侶をあなたが得たのは、四年前のことでした。
──早苗(さなえ)
誰が見ても羨ましがる、あなた自慢の妻。
そしてそんな妻と送る、平凡で幸福な日常。
ですが、誰が見ても幸せそうな日々を送っている二人は、実はとある問題を抱えています。
あなたの心因性勃起不全、つまりインポテンツが原因のセックスレス。
夫婦の務めが、夜の営みが、あなたたち夫婦のあいだではもう暫く行われていません。
妻としてではなく、女としても完璧と言っても過言ではない早苗。
あなたは、いつしかそんな愛する妻と自分との釣り合いを疑い、心の奥底でおびえるようになっていました。
はたして、自分がこのすばらしい女性にふさわしい男なのかどうかを。
「良いんです。愛し合って、心がつながっているならそれで」
夜の営みが無いことを罵ることもなく、あなたの最愛の妻は、あなたを変わらずに愛し続けます。
ですがあなたの不安は、妻のそんな優しい言葉とは裏腹に加速していました。
欲求不満から浮気に走られても文句は言えないと、そんなことまで頻繁に考えてしまいます。
浮気──と。
息を呑みながらつぶやくあなた。その目には異様な光がみなぎっていました。
いつしかあなたは、愛する妻が自分以外の誰かに抱かれて喘ぐ姿を想像し、
信じられないほどに興奮してしまう自分がいることに気付いていたのです。
家にいるあいだも職場にいるあいだも、欲望は突然あなたを苛みます。
『自分以外の誰かに妻を抱かせて、性欲を解消してあげればいいのではないか』
思い浮かべるたびに必死に振り払ってきた妄想に、いよいよあなたは蝕まれていました。
──その瞳が、女の噂が絶えない部下を見たまま、じっと固まります。